修行に耐えてやっていけるのか不安になっていませんか?
もうすでに修行中の身で心が折れそうだと悩んでいませんか?
今回は寿司職人になるための修行がどれほど厳しいのか私の経験や知見を交えて書きたいと思います。
以前の記事で寿司職人、海外、厳しいという内容で記事を書きましたが、今回はそもそも寿司職人になるための修行と言われるものにスポットを当てたいと思います。
私の国内での経歴を簡単にいうと
私は寿司学校に一年通い、同時に学校が運営する大衆店で修行。
卒業に伴い、銀座の高級店に就職したという経歴です。
高級店時代の修行について
今回は修行でも、特に高級店時代の修行を深掘りしていきたいと思います。
まずは次のようなお寿司屋をイメージしてください。
- 親方の名前を店名にしている
- 小規模経営
- 6-8席のカウンターのみか
- 個室のお座敷もしくは個室カウンターなど併設
- おまかせのコースで1人2万円以上
ここで言う厳しいとは何か?
辛いという言葉にも置き換えられると思います。
その辛さのレベルとはどこに由来するのか?
それは求められるレベルです。
高級店や有名店ほど求められるレベルは上がります。
なのでそのような店は、より厳しいと言えるでしょう。
お客様も最高の経験を求めてくるので1つのミスも許されない緊迫した状況にもなります。
しかし、そこで硬い表情をしてると親方や先輩から注意されるんですね。
「そんな顔で接客したらお客様がリラックスできないだろ」と
「そんなこと言ったってしょうがないじゃないか」そんな時はえなり君のセリフが勝手に心の中で発動します。
これは日本の高級店に限ったことではありません。
フォークを落としてサヨウナラ
私がニューヨークで働いていたころ、知り合いが三つ星の高級フレンチレストランで働いていました。
サービススタッフが客前でフォークやらを落とすとクビらしいです。
キッチンの見習いなどもちょっとミスってしまってその場でクビになったという話しも聞いたことがあります。
ものすごい緊張感の中仕事をしなければいけない、これは辛いですよね。
話しを日本での修行に戻します
このブログの読者のほとんどは将来的に海外で働くことを考えていると思います。
私の以前の記事でも、日本で修行してから海外へ出た方がいいということを言っています。
それはビザの関係もありますが、日本の方が海外よりも求められるレベルが高いので厳しい環境で修行した方が良いという側面もあります。
修行が辛いです。。。と相談を受けます
ここで最近、にわかにこのような相談を受けることが増えています。
「修行が辛くて耐えられない」
私が寿司学校を出た10年前は
「寿司学校出のやつは高級店では通用しない」
と言われていました。
私が卒業後に就職したお店には私の前に卒業生や在校生が3人行っていましたが、全員すぐに辞めました。
「田中、お前が最後の砦だ、お前でダメなら高級店は諦める」
的なことを気にかけてもらっていた寿司学校の社長に言われて送り出されたのが自分だったんですね。
学校では首席で卒業し、やる気も体力もあり。自分で言うのは憚りますが自分でダメなら他のだれでもダメだろうなと思っていました。
自分も相当に辛かったです。。。
しかし、そんな自分でも相当に辛かったです。
逃げ出したいと何度も思いました。
なので、寿司学校を出ただけの人がいきなり高級店では通用しないというのは事実です。
それなりに苦労や辛いことを乗り越えなければいけません。
※また当時の寿司学校は1年制であり、学校に行きながら直営店や他の店舗でバイトしたりと現場経験を積んだ後に就職が基本でした。しかし現在の寿司学校ではどこも数ヶ月のコースしかないので就職した時点でのレベルでは私の時よりもさらに厳しい状況と言えます。
ちなみに個人的には寿司学校は数ヶ月で良いと思っています。
高級店ではどのように厳しいのか?
まず、先程も書いたように高級店には独特の緊張感があります。
常連さんが多く、同じお茶割りを作るのにも
こだわりの割りがそれぞれあったり、どのようなタイミングで次を出すのかというのにも神経を使います。
お客さんを直視せずに間接視野で状況を見て、席を立つ際にはすかさずサッと椅子を引いて御手洗いなどにご案内します。
お客様に細心の注意を払いながら、親方や先輩からの要求にも答えなければいけません。
常に集中して、理想は言われる前に次を予測してその時に必要な物を持っていくことです。
仕込みに関しても一片の妥協も許されません。
例えば鰯という魚は骨が多く複雑に入り組んでいます。
学校や大衆店では全部抜けないからだいたい抜いたら後は包丁入れて口に残らなければいいよという仕込みを教わると思います。
高級店は全部抜ききります。
めちゃくちゃ時間かかる上に鰯は温度に弱い魚なので、適宜冷蔵庫に入れて温度を下げたり、急ぎの時は自分の手を氷水で冷やしてやることもあります。
全ての仕込みの難易度が上がるのが高級店です。
飲食店経験者でも最初は相当に辛いと思うと思います。
自分が常にベストな状態ならいいんですが、この仕事をこなしながら長時間拘束されます。
慢性的な寝不足の中、仕事をしなければいけません。
寿司屋の1日の営業を見ていきましょう
ざっくりしたスケジュールはこんな感じでしょうか。
- 仕入れ
- 仕込み
- ランチ営業
- 賄い
- 仕込み
- ディナー営業
市場へ仕入れ
市場への朝の仕入れは大体、朝8時くらいです。(もっと早い店もたくさんあります)
仕込み
そこから店に行って仕込みを開始します。
ランチ営業
ランチ営業をこなし
賄い
みんなで賄いを食べます。
賄いを作るのは新入りの仕事なことが多いです。
賄い作りを嫌がる人もいますが、率先してやった方がいいです。先輩方に自分の味を軌道修正してもらえる最高の機会です。
その後仕込みが終わっていればディナーの準備までは休憩に入れますが、
新入りは電話番をやらされることが多いです。
寝る間はありません。
私の修行先は先輩の提案で従業員全員で当番制にしてくれたので休める日も多くありました。
ディナー営業
そしてディナー営業です。
私の修行先は親方が立つカウンターが6席、小上がりと呼ばれる4人が座れるお座敷が2つありました。
銀座という土地柄、夜は会食や接待も多く料理以外にも気を使うところが多くなります。
親方や先輩にはその日の営業の絵が頭の中にあってこの感じだったらこのように進むだろうという予測のもと完璧なタイミングで指示が来るんですね。
最初は圧倒されますが、その絵とシンクロできるようになると仕事が楽しくなります。
しかし、そうなるには少なくとも数ヶ月はかかります。
始めたばかりの人は辛いですよね。
ディナーは続くよどこまでも
ディナー営業はお客様が帰るまで続きます。
海外のお客様ばかりで引きが早い場合には夜11時には帰ることもできるでしょう。
しかし、常連さんが遅くに来て飲み始めると夜中の1時や2時というのもざらにありました。
おそらくみなさんが辛いと思う原因の一つはこの拘束時間の長さだと思います。
やっとの休日も
私の修行先は週1日休みでしたが、お客様から依頼があれば開けるというスタンスでした。
なので1ヶ月近く休みが無いということもあったと記憶しています。
途中からお客様も交えて休まないとダメだよねという話になり必ず週休1日は確保されるようになりました。
この労働環境を良くないと否定する人がほとんどでしょう。
しかし、それが当たり前の世界だったんですね。そこから10年後の今でもそういう働き方をするお店は多いと思います。
今は時代の過渡期であり、寿司職人という仕事を志す若者も多い中でこの労働環境は必ず改善されていくと思います。
修行が辛いあなたへのアドバイス
今、まさにそのような店で修行中の方へ私からのアドバイスです
常に自分に矢印を向けましょう
現状を嘆いても何も変わりません。
どうせ長時間いるなら職場を少しでも自分が居心地が良くなるように工夫しましょう。
好きなフィギュアを持ち込んで目立たないところに置いておいてもいいんじゃないですか?
あとは腹を括って修行の期間は寿司とそこでの人間関係に全振りする覚悟でやること。
吹っ切れられると楽になります。
言葉足らずの指示が降ってくる
また職人さんの中には言葉足らずで指示を出す人も多いです。
「そんなの分かんねーだろ」と突っ込みたくなるのは分かりますが、そうなってしまったら成長は無いです。
どこかに必ずヒントがあるので、どうしたらその指示だけで答えに辿り着けたのかを落ち着いて考えてみてください。
前職がマニュアルや規則で管理された仕事から寿司職人に転職された方には寿司屋の個人店とは驚きの連続でしょう。
休みづらいも辛い理由
また、辛いもう一つの理由として仕事を休みづらいという相談も受けたことがあります。
例えば、風邪を引いてしまって体調が悪かったら休みたいと思いますよね。
しかし、なかなか言いづらい雰囲気があるんですね。
体調不良ごときで休むなという無言の圧があります。
私の記憶では店にいた2年半の間、体調不良で休んだ人はいなかったのでは?
と記憶しています。
自分の手を出刃で仕込む
ある日仕込み中に出歯包丁で手を切ってしまったんですが、病院に行って縫い合わせ、夜までに仕事に復帰してました。
衛生面を考えてもこれは良くないのでこの状況では仕事を休んだ方がいいです
これは武勇伝でもなんでもなくそれが普通の環境になってくるんですね。
慣れです。
寿司職人は本当に休まないです。
親方や先輩から戻って来いよとは言われないんですが戻るんです。
「大丈夫か?」
「はい」
くらいな感じです。
なかなかこの慣習を変えることは難しいです。
なのでこれも自分に矢印を向けてください。
体調管理の徹底
体調管理を徹底して風邪をひかないこと。
怪我しないこと。
また普段から人間関係をしっかり構築していれば休みの希望も出しやすくなると思います。
サラリーマン的寿司屋もある
修行入りたて最初の数週間というのは本当につらいと思います。
分からないことだらけで怒られっぱなしで、狭い空間で長時間過ごさなければいけません。
もうこんなの聞いたら無理だろ!高級店は諦めるわという人も多いと思います。
寿司屋の中でもサラリーマン的な働きかたができるお店もたくさんあると思います。
個人店ではなく、組織体系がしっかりしていてる大きな母体のところですね。
労働時間などはしっかりと勤怠管理され休みも比較的取りやすいと思います。
厳しいことを言われることがない店もたくさんあります。
それはそれでいいと思います。
個人店はロマンがある
ただ、個人的には寿司屋の個人店はロマンがあって好きです。
マニュアルが無いからこそ、人間力が試されます。
客観的にこれおかしいだろと思うことでも、自分に矢印を向け、己の改善点を模索することで成長できます。
またその姿勢を周りは評価してくれます。一石二鳥ですね。
一流店は個人店に多い
また個人店の方が、寿司屋としての格が高く一流店が多い傾向にあり、また一流のお客様もそういった店に行くことが多いです。
自分の名前でやっている人が多いので、個性やこだわりも強い傾向にあります。
日々真剣勝負をする環境から得られる物は多いです。
私も修行を始めた当初は辛くてしょうがなかったです。
しかし、ここが人生の踏ん張り時だと覚悟して荒波に揉まれにいきました。
寿司学校の同期で同じく高級店に就職した仲間と「よく1週間耐えたな」とお互いを慰め合い「次は1ヶ月頑張ろう」と電話していたのを覚えています。
練習を欠かさず続けたことが大きな自信に
眠い中でも営業後に必ず練習すると決め、朝の市場では練習用の魚を買い、休憩中に仕込み。全部片付けが終わってから居残り練習してました。
カウンターの前に鏡を置いて毎日練習してました。
しばらくしてから親方や先輩が疲れているにも関わらず練習を見てくれるようになりました。
片付けを代わってくれた先輩
常連さんに飲みに連れて行ってもらうこともよくあったんですが、その時も先輩が
「やすは練習してろ」とその間に片付けを終わらせてくれて一緒に連れてってくれるんです。
辛い中で一日も欠かさず練習を続けたことは自分の中で大きな自信になりました。
1年を過ぎる頃には余った魚で練習させてもらえるようになり、
ごくたまにですが、常連さんに握らせてもらっていました。
自身の担当ポジションを譲ってくれた先輩
また、煮物や焼き物などの寿司屋のつまみを担当していた和食出身の先輩からポジションを譲ってもらいました。
「やすは頑張ってるから、親方もやらせてみろって言ってくれてる」
最初は緊張で手の震えが止まらなかったんですが、すごく嬉しかったです。
先輩や親方への感謝
本当にいい先輩、親方に恵まれたなと感謝しています。
先輩方も厳しい環境でやってきたからこそ頑張っている人には協力的です。
一流の職人の仕事への向き合い方には感動します。
文字に起こしたら完全にパワハラまがいのことを何度も言われましたが
厳しい環境の中ではみんな、自分にもチームにも厳しいんです。
寿司職人の修行は辛い
寿司職人の修行は辛いです。
しかし、今となっては厳しかった環境に感謝しています。
自分がトップになると誰も厳しいことを言ってくれなくなります。
今でも親方や先輩から言われてたことが自分の道標になっています。
厳しい環境の中で一流のお客様を相手に妥協の無い仕事をこなしていく毎日から得られるものは計り知れない財産になると思います。
先輩は独立し、繁盛店に
参考までに
その店でお世話になった先輩方は東京や札幌などで独立し、繁盛店になっています。
ニューヨークに来てミシュランをとった先輩もいます。
本当に全員が成功しているんですね。
この確率は無視しない方がいいですよね。
厳しい環境で頑張ってきた人へのご褒美かもしれませんね。
2点補足します
2点補足させてください。
素晴らしい職人は高級店以外にもいる
まず、高級店の話しがメインになりましたがそのような店でなくとも素晴らしい職人さんはたくさんいます。
私が寿司学校在学中にお世話になった食べ放題業態の店にいた年配の職人さんは本当にすごいスキルがありました。
手品のような手捌きであっという間に仕事をこなします。
よく釣りに連れて行ってもらったんですが本当に憧れの職人さんでした。
それぞれに需要があるので高級店だけが優れているということを言いたい訳ではありません。日本には街場にもいいお寿司屋さんがたくさんあります。
自分にあった修行先を見つけるということが何よりも大事です。
あなたの心をむしばんでまで優先される「修行」などない
それともう一点は、厳しいとか辛いという次元ではなく
職人さんの中には殴ってきたり、ふざけてタバコの火を押し付けてきたりという人もいます。
まだまだそんなしょうもない人がいるのも事実です。
有名店のシェフでそういう噂のある人もいます。
それに関しては我慢する必要は無いです。
その人から良い仕事は学べません。
修行とは辛いものだから耐えないといけないというマインドに縛られてもいけません。
精神を病んだら大変です。
最後に
人生を振り返った時に、あの時のおれ頑張ってたなって思えたらいいですよね。
そんな人生にするために今を一生懸命生きようと私は思っています。
寿司職人に限らず、成功するためには辛いことにも耐えなければいけない時が訪れます。
辛いからと辞めてしまえばそれまでです。
あと1日、あと1週間頑張ってみて下さい。
自分を信じてください。必ずできます。
辞める決断はいつでもできます。
5年後、10年後に振り返った時に頑張って続けて良かったなと思える日が来ます。
頑張ってください。